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第1第2鰓弓症候群・小耳症による顔面変形の治療

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第1第2鰓弓症候群・小耳症による顔面変形の治療

 

1.第1第2鰓弓症候群、小耳症について

第1第2鰓弓(さいきゅう)症候群とは、妊娠4週初め頃の胎児にできてくる隆起(脊椎動物の「えら」)で将来、下顎や耳、口などの骨や筋肉になるもとの部分で、何らかの異常が発生し、顔面の形態や機能に様々な異常を生じる生まれつきの疾患です。多くの場合、片側に起こります(約80%)ので、顔面非対称になります。発生頻度は、およそ出生3500人に1人で、男女差はなく、明らかな遺伝的関係はないとされております。特徴的な症状として、小耳症に代表される耳の変形・聴力障害、下あご・顔面骨の成長障害、口角が広がった巨口症、などがあります。一口に、第1第2鰓弓症候群といっても、症状の現れ方や程度には個人差が大きく、私たちの治療方針も個人個人に応じて決定しております。

 

(1)小耳症などの耳の変形・聴力障害

小耳症にも耳介が小さいものから全く耳介がないもの、外耳道までないものなど様々な形態があります。また、小さな皮膚の突起のような副耳などもよく見られます。小耳症側の聴力障害がある場合、通常は反対側の聴力が正常であれば、日常生活で困ることは少ないです。まれに、両耳が小耳症の場合や、反対側の耳も難聴の場合には補聴器の使用が必要になります。このような場合は、早期から耳鼻科の先生による補聴器の処方や聴力回復のための治療可能性についての診察が不可欠です。

 

(2)下あご・顔面の成長障害

下あごの成長障害以外にも、上あごやほほ骨などの顔面骨にも成長障害があり、成長に伴い顔面非対称が目立つようになります。下あごから顎関節にかけての成長障害の程度によって分類するプルザンスキー分類(Pruzansky-Koban分類)が有名で、治療方法もこの分類に従って行っています。

顔面の骨以外にも皮下・軟部組織の成長障害があります。よく見られるのは、第1鰓弓由来の咀しゃく筋の低形成や欠損と第2鰓弓由来の顔面表情筋、特に、笑ったり、口角を下げる筋肉の麻痺(いわゆる顔面神経麻痺)などが起こります。

顔面神経麻痺の治療に関しては、「顔面神経麻痺の形成美容外科治療サイト」のこちらをご覧ください。 

(3)その他の成長障害

口角が広がって口が裂けたように見える巨口症、舌の変形、鼓膜や耳小骨などの中耳の異常による聴力障害を伴うことがあります。

 

2.治療方法

手術治療は、生まれてから20歳ぐらいの成人までかけて、成長に応じて生じてくる顔面変形に対して、数回必要になります。ここでご紹介する治療方法は、私たちの長年培ってきた長期成績に基づく方法です。治療は歯科矯正治療も含め、全て健康保険の対象となりますし、各地方自治体の乳幼児医療補助や生まれつきの病気お子さんに適用される育成医療制度を用いると治療費に関する心配は不要となります。

 

(1)1歳頃 巨口症の治療

巨口症を閉じて、口の形と機能を再建する手術を行います。皮膚の傷跡が引きつれないように、目立たなくなるよう縫い合わせます。また、口元の自然な動きが出るように、裂けてしまった口輪筋を再建します。副耳があれば、この時に一緒に切除いたします。

この手術は、入院して全身麻酔下で安全に行います。手術時間は、1時間ぐらいです。退院は、口の腫れが落ち着いて十分な水分と食事が取れるようになる術後2日目以降になります。手術後2-3週間程度は、傷口に負担のかからない軟らかい食事を召し上がって頂きます。

 

(2)10歳前後

A.小耳症、耳介変形の治療

耳介形成術

耳介変形の程度が軽いものは、本人が気にしたり、成長過程で目立ってくるまでは治療のタイミングを10歳以降にずらします。

明らかに耳介の変形、欠損を認める小耳症に対しては、自分の第6,7,8肋軟骨の一部を採取して、それらを組み合わせて耳介のフレームを作製して行う耳介形成術を行います。10歳頃になりますと、体も大分成長し、使用する肋軟骨の大きさも十分な大きさになりますし、健康な方の耳の大きさが、ほぼ大人の耳の大きさになりますので、これを参考にして耳を作りやすくなります。

この手術は、入院して全身麻酔下で安全に行います。手術時間は、3時間ぐらいです。退院は、形成した耳の部分の傷と、肋軟骨を採取した傷が落ち着いた術後7日目以降になります。術後3カ月程度は、形成した耳の部分に力がかからないように、体育・運動などに注意していただきます。

 

耳介挙上術

耳介形成術から、通常6ヵ月後に、形成した耳介を挙上させる手術(耳おこし)を行います。

この手術は、入院して全身麻酔下で安全に行います。手術時間は、2時間ぐらいです。退院は、挙上した耳の部分の傷が落ち着いた術後2日目以降になります。術後3カ月程度は、形成した耳の部分に力がかからないように、体育・運動などに注意していただきます。

B.顔面非対称・かみ合わせの治療

顔面の非対称が強い場合には、顔面骨の成長終了(18歳以降)を待たずに、少しでも非対称を改善するために上あごや下あごの骨を切って移動させる手術を行います。かみ合わせを整える歯科矯正治療も併用いたします。

 

(3)15歳ぐらいまで

下顎骨骨延長術または肋軟骨-肋骨移植術

私たちは、15歳ぐらいまでの強い顔面非対称(Pruzansky分類でIIA-ⅡB)で主に下あごの成長障害が原因の場合には、下顎骨骨延長術を行って下顎骨を伸ばす手術を行います。手術後、かみ合わせがずれますので、歯科矯正の先生にかみ合わせを調節していただきます。下顎骨骨延長法は、私たちは20年以上前から行っており、適応と正確な手術方法を選べば有効な方法と考えております。

一番重度の下顎が小さく顎関節も全くない場合(Pruzansky分類でIII)では、そのままにしておくと顔の成長がどんどん障害されますので、肋骨-肋軟骨を移植して、下あごの形を形成します。

 

(4)16歳以降

上下顎骨切り矯正術

16歳以降であれば、なるべく顔面骨の成長が終了する18歳ぐらいまでは歯科矯正治療を行っていただき、その顔面非対称とかみ合わせを同時に治す骨切り手術を行います。顔面非対称が大きい場合は、骨延長術という方法を併用することで良い結果が得られます。私たちは、顔面非対称の骨切り矯正手術による治療に力を入れており、得意とする治療のひとつです。歯科矯正治療が十分に行われていない場合でも、手術先行方法による外科矯正手術により早期の顔変形の改善と治療期間の短縮を図っております。

 

(5)18歳以降

顔面の対称性を獲得する手術

第1第2鰓弓症候群は、下あご、上あご以外にもほほ骨やこめかみの骨の低形成を認める場合がありますので、これらの骨をなるべく左右対称になる位置に移動させる手術を行います。

また、骨以外にも、皮下・軟部組織・筋肉の低形成が非対称の原因になっておりますので、美容外科手術で培われた最新の脂肪注入術を行って、顔面の特に下あごからほほ部にかけての対称性の向上に努めております。

これら手術は、入院して全身麻酔下で安全に行います。手術時間は、症状にもよりますので、1~4時間ぐらいです。退院は、脂肪注入であれば術後1-2日目、骨の移動の手術であれば、腫れが術後5日目以降になります。

顔面非対称の改善以外にも、例えば鼻の形や目の形など大人になってから気にかけている顔のあらゆる問題の解決に、取り組んでおります。

私たち以外の施設で、すでに治療を受けられてきてさらに顔の改善を希望される方でも、お悩みを伺い治療の相談をさせていただいております。

 

治療についてのご相談はこちらをどうぞ。

 

第1第2鰓弓症候群の治療症例

 

5歳、男 左第1第2さい弓症候群(左顔面低形成、左巨口症、左耳介変形:Pruzansky分類 type IA)

手術

1歳:巨口症形成術

5歳:左耳介形成術、左下顎骨骨延長術(14mm延長)

18歳:左顔面に脂肪注入術

(上段:A-F 治療経過、下段:最終咬合状態)

第1第2鰓弓症候群 Pruzansky typeIIA 症例 第1第2鰓弓症候群 Pruzansky typeIIB 咬合

治療経過:生まれつき巨口症、左小耳症を認め、左第1第2さい弓症候群と診断されました。生後1年で、巨口症形成術を行いました。顔面の成長とともに5歳頃から左顔面の低形成による顔面非対称の症状がはっきりしてきました(上段A)。5歳で左耳介変形に対し耳介形成術を行い、また同時に低成長の左下顎骨延長術を行いました。左下顎骨は術後7日目から1日1mmずつ骨延長を行い、顔面の対称性が得られるまで合計14mm骨延長を行いました(上段B)。骨延長後に生じたかみ合わせのズレには、歯科矯正治療を併用しました。

それ以降は、顔面の非対称性は改善しておりましたが(上段C,D)、16歳頃の思春期の顔面の成長スパート時期から、再び顔面の非対称が目立ち始めました。18歳時、顔面非対称の程度は比較的軽度でしたので、顔面骨の移動手術までの治療をご本人もご家族も希望されませんでした(上段E)。ただ、ほほからあごにかけての若干の顔面の非対称性の改善を希望されましたので、左顔面への脂肪注入術でフェイスラインを整えました(上段F)。歯科矯正治療により、最終的な、かみ合わせ状態も良好になりました(下段)。

コメント:15歳未満での下顎骨骨延長術は、その手術効果に賛否両論ある治療ですが、この症例のようにPruzansky分類 type IIAの比較的軽度の場合には、早期に顔面非対称を比較的低侵襲に改善できる治療です。ただし、この症例のようにやはり成長終了時に顔面骨の非対称性が残りますが、比較的軽度であれば脂肪注入術でフェイスラインを整える治療だけで良い結果が得られます。もちろん、顔面骨の非対称性を治す顔面骨を移動させる手術をご希望がある方にはいたします。この症例の場合も、顔面骨を移動させる手術ご希望されれば、より良い顔面の対称性が得られたと思われます。

 

 

21歳、男性 右第1第2さい弓症候群(右顔面低形成、右小耳症:Pruzansky分類 type IIB)

手術

8歳:右下顎骨骨延長術(16mm延長)

10歳:右耳介形成術、耳介挙上術

21歳:上下顎骨同時骨延長術 右上顎11.5mm骨延長、右下顎16mm骨延長

21歳:骨延長器抜去時に、左下顎骨外板を切除した右下顎骨上に移植

(上段:上下顎同時骨延長前、下段:治療終了時)

第1第2鰓弓症候群 Pruzansky typeIIB

治療経過:生まれつき右小耳症を認め、左第1第2さい弓症候群と診断されました。顔面の成長とともに6歳頃から右顔面の低形成による顔面非対称の症状がはっきりしてきました。8歳で低成長の右下顎骨延長術を行いました。右下顎骨は術後7日目から1日1mmずつ骨延長を行い、顔面の対称性が得られるまで合計16mm骨延長を行いました。骨延長後に生じたかみ合わせのズレには、歯科矯正治療を併用しました。

それ以降は、顔面の非対称性は改善しておりましたが、思春期の顔面の成長スパート時期から、再び顔面の非対称が目立ち始めました。21歳時、顔面非対称の程度は重度でしたので、上下顎骨同時骨延長術(右上顎11.5mm骨延長、右下顎16mm骨延長)を行い、低形成の右顔面を左顔面と同じ大きさにする手術を行いました。この症例は、専門の矯正歯科医の先生がお住いの近くにいらっしゃらなかったため、十分な歯科矯正治療が行えませんでしたが、ベストなかみ合わせではありませんが、術前矯正治療も行わず、術後矯正治療も行えないサージャリーファーストならぬサージャリ―オンリーの治療方法でしたが、顔面の対称性ならびにそれなりに安定したかみ合わせが、短期間のうちに得られました。最終的には、歯科矯正治療により、細かなかみ合わせ状態も良好になりました(下段)。

コメント:15歳未満での下顎骨骨延長術は、この症例のようにPruzansky分類 type IIBの中等度の場合には、手術後数年は顔面非対称を比較的低侵襲に改善できる治療です。しかし、顔面骨の成長スパートが始まる13、14歳以降では、再び顔面非対称が再発してきます。再発した顔面非対称の程度が軽度な場合は、一期的な上下顎骨切移動術で治療が可能ですが、顔面非対称の程度が中等度以上の場合は、この症例のように上下顎同時骨延長法で良好な結果が得られます。

 

治療についてのご相談はこちらをどうぞ。


お問い合わせは、形成外科・美容外科 外来受付まで TEL 03-5343-5611 午前9:00~16:00(日曜・祝祭日・年末年始は除く)

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